「よっしゃ!これでクリア確……お?お?」
突如画面が真っ暗になってしまったスマホを手に、男は困惑と焦りの表情を見せる。
「なに?な?なんで!?え?」
混乱する男の頭が冷静さを取り戻すよりも早く、手の中のスマホはブルブルと振動し始めた。
「電話…このタイミングで?クリア目前のこのタイミングで!?」
どうやらゲームをしている途中に着信が入り、画面が強制的に切り替わってしまったようだ。
男が吐いた言葉から、彼がまだ少し混乱していることが感じられる。
それほどこの男は、スマホゲームを本気でプレイしていたのだろう。
「はぁ、もう…。はい、もしもし?」
男はやるせない気持ちを消化しきれないまま、着信に応じた。
「おう!もしもし!久しぶり!なんか元気ないな、何かあったのか?」
スマホのスピーカーから、やや大きめの声が響き、男の苛立ちが少し増す。
「いや、なんも。というかそっちこそなんだよ。珍しいじゃん電話かけてくるなんて」
「あぁ、ちょっとさ、相談があって。」
「相談?なに?長くなるんだったら今はちょっと難しいんだけど。」
今は、先ほどまでプレイしていたゲームの1時間限定イベントが開催されている。
普段ならゲームよりも友人を優先する男だったが、一時的な感情が、彼に冷たい言葉を選ばせた。
「ごめん、忙しかったのか。じゃあ今日の夜、いつものとこでどう?」
素直に謝られたことで、男は一気にクールダウンする。
同時に自分の小ささに気付き、慌てて言葉を返した。
「あ、いやいいんだけど。こっちこそごめん。今夜なら10時くらいでどうよ?」
「ありがとう。じゃあ、22時にいつものとこで待ってるわ。」
「はいはい、じゃ、またー。」
「はいー。」
電話が終わり、スマホの画面が元のゲーム画面へと切り替わる。
画面には、大きな青い文字で「LOOSE」と表示されており、男は小さく息を吐いた。
「相談ってなんだろ。もう少し詳しく聞けば良かったかな。」
続きをプレイする気になれず、ソファに横たわり、先ほどの友人の言葉を思い出す。
男はそのままソファでうたた寝をはじめ、気がつけば窓の外は真っ暗になっていた。
ー21時50分ー
いつもの場所に到着した男は、OPENと書かれた札がかかっているドアを開き、とあるバーの中へと入った。
すぐに、電話をかけてきた友人を見つけ、声をかける。
「おいすー。」
「お、早かったな。こっちこっち」
すでに少し酔っぱらっている友人に手招きされ、男はカウンターへ向かった。
「いつもどうもありがとうございます。何にされますか?」
席に着くと、愛想のいいマスターが渋い低音ボイスでオーダーを聞いてきた。
男は「んー。」と少しだけ考えて、ジントニックを注文する。
「それで?相談って何よ。」
男は友人の目を見て、気になっていたことをすぐに尋ねる。
友人は、少し俯き加減になりながら、ポツリポツリと語り始めた。
話を要約すると、友人は今の彼女と結婚するつもりなのだという。
しかし、彼女の両親になかなか了承してもらえず、話が前に進まないようだ。
反対の原因は、友人の仕事のことのようで、友人はこのまま説得を続けるか、転職をするかで悩んでいる。
「なるほどなぁ、難しい問題だそりゃ。」
「だろ、俺もさ、お前みたいに公務員だったら良かったんだけどな。」
「公務員つっても、賛否両論よ。税金泥棒つって毛嫌いされることもあるし、そんな良いもんでもねぇよ。」
一見すると皮肉のように感じる友人の言葉だったが、男には友人が純粋にそう思っているだけだということが理解できる。
今日の電話で少し冷たい態度をとってしまったことを反省している男は、自分を卑下しつつ、柔らかく流した。
「でも、お前今の仕事、好きなんだろ?やりがいあるって言ってたじゃん。」
「そうなんだよ。今の仕事がやっぱ好きなんだよね。今さら他の仕事をする気にもならないし、出来る気もしない。でもそれじゃあ彼女のご両親は許してくれそうにないし、もうどうすりゃいいのか全然わかんないわ。」
「彼女はなんて言ってんのさ。」
「彼女は、両親の言うことなんてほっとけって言ってる。結婚なんて当人同士の問題だから、親にどうこう言われる筋合いはないって。」
「そりゃまた、極端な考え方だな。」
「俺もそう思う。いくらお互い成人しているとは言え、自分たちの我だけ通すってわけにはいかねぇよ。」
「そりゃそうだ。」
「もしさ、お前ならどうする?」
友人からの質問に、男は難しい顔で「んー」と唸る。
両肘をつき、男は目を閉じて真剣に解決策を考えた。
「そうだな。時間かけて、ゆっくり関係を構築していくしかないんじゃないか?」
男は同じ体勢のまま目だけを大きく開き、正面の友人を真っ直ぐに見る。
友人は男の言葉を受け取り、「スゥー」と大きく息を吸い込んだ。
「はぁぁぁぁ。やっぱそうだよな。」
友人は吸い込んだ息を一気に吐き出し、小さく頷きながら納得した様子を見せた。
「そうだよ。焦る必要なんかないし、ゆっくりじっくりやってみ?お前はいい奴なんだから、絶対大丈夫だって。」
「うん、ありがとう。やっぱお前に相談して良かったわ。」
「つっても、俺だって結婚してないし、それが正解かどうかはわかんねえよ?でもお前なら大丈夫だと思う。人に好かれる能力だけは昔から凄かったから。」
男の何気ない一言に、友人はピクリと眉を上げる。
「だけって何だよ、だけって。」
「あーいや、今のは言葉の綾というか、何というか。ま、そういうことだから、今日はパーッと飲もうぜ!」
「んだよ。ちょっと感謝して損した気分だわ。」
「そういうなって、景気づけに一杯奢ってやるからさ。」
こうして、男と友人の友情が少し深まったこの夜から半年後、友人はめでたく彼女の両親からOKをもらい、無事に結婚することができた。
男は結婚式のスピーチで号泣し、そのことでしばらく友人にからかわれ続けるのだが、この時の男にはまだ知る由もない。
友人の職業はなんでしょう?
すでに少し酔っぱらっている友人に手招きされ、男はカウンターへ向かった。
友人からの質問に、男は難しい顔で「んー」と唸る。
両肘をつき、男は目を閉じて真剣に解決策を考えた。「そうだな。時間かけて、ゆっくり関係を構築していくしかないんじゃないか?」
男は同じ体勢のまま目だけを大きく開き、正面の友人を真っ直ぐに見る。
男は、カウンター席に座っています。
相談中、カウンターに両肘をついて、男は真剣に解決策を考え、そのままの体勢で正面の友人を真っ直ぐに見た。
ということは、友人はカウンターの中にいるということになり、友人の職業はバーテンダーだということがわかります。