「ただいまー。」
真っ暗な玄関で、一人の男が帰宅を告げる。
廊下の先にある部屋にも明かりは灯っておらず、男の声に応える者はだれもいなかった。
男はリビングに入り電気を付け、ソファにカバンを放り投げる。
ネクタイを緩めながら冷蔵庫を開け、缶ビールを取り出すと、その場で一気に飲み干した。
「あ゛あ゛あ゛ぁ、しみるぅ!」
男は空になった缶を握り潰し、ゴミ箱に投げ入れる。
新しい缶ビールをもう一本取り出すと、ノロノロと移動し、「どっこいしょ」と言いながらソファに深く腰掛けた。
「今日は本当に忙しかったなぁ。こんな時間になるとは思わなかった。」
今日は月末の31日で、忙しくなることは承知していたのだが、どうやら想像を超える忙しさだったようだ。
「先月の同じ日はあんなにゆっくりできたのに、大違いだなほんと。」
男は先月の楽しい記憶と、今日の激務を頭の中で比較し、思わず大きなため息つく。
「ダメだダメだ、楽しい事を考えないと。」
酒を飲みながらネガティブな事を考えるとろくなことにならない。
そう感じた男は、カバンの中から手帳を取り出し、明日以降の楽しい予定を確認することにした。
手帳を開き、今月のスケジュールを見ると、仕事の予定でビッシリになっていた。
唯一、6日前の日付に赤い丸がついており、大きな文字で給料日と書かれている。
「今月貰った給料は少なかったけど、来月は期待できそうだな」
今月は仕事ばかりでうんざりしていたが、それも今日で終わりだ。
激務の日々が過ぎてしまえば、あとは来月の給料日を楽しみに待つだけなのである。
手帳のページをめくり、翌月の予定を見てみると、給料日の4日後に「旅行」の文字を発見した。
「そうだ!来月は日帰りで旅行へ行くんだった!沖縄楽しみだなぁ。」
日帰りとは言え、久しぶりの旅行に男のテンションは急上昇する。
「次の日には飲み会があるから、お土産買うの忘れないように、メモしておこう。」
「旅行」と書いてある下に、小さな文字で「泡盛」「ミミガー」「ちんすこう」などと書き込んだ男は、そのまま手帳のページをもう一度めくった。
再来月のページを見てみると、31日にも「飲み会」と書かれている。
「そういや再来月の月末は会社の飲み会があるんだった。お土産を少し多めに買っておかないと。」
そんな独り言を呟いた瞬間、男は同じ月に大事な予定があることを思い出した。
「あ、そうだ!再来月は妹の結婚式があるんだった。こりゃ、あまり無駄遣いはできないな。」
再来月には飲み会が2回とさらに結婚式もあるということになる。
可愛い妹の結婚式で祝儀をケチるわけにもいかないので、男は会社へのお土産を諦めることにした。
この先のスケジュールを一通り確認し終えた時、テーブルの上に置いてあるデジタル時計が、「23:59」から「00:00」に切り替わった。
「あーやべ、そろそろ風呂入って寝ないと。」
男の仕事は朝が早い。
あまり夜更かしすると、仕事に遅刻してしまうのだ。
男が、風呂から出て、布団に入った時、テーブルの上の時計は「00:32」と表示されていた。
男は布団の中でスマホを操作し、5時にアラームを設定する。
目を閉じた瞬間、男はすぐ眠りに落ちた。
この日、男は奇妙な夢を見た。
沖縄へ行き、海パン姿で妹の結婚式に参加していたのだ。
周りはスーツを着ているのに、何故か自分は買った覚えのない際どい海パンを履いている。
親戚一同から冷たい視線を浴び、可愛い妹に「出ていって」などと言われ、必死に弁解しようとしている時、男は突然現実に引き戻された。
「ピピピピッ ピピピピッ」
男はスマホを手に取り、控えめな音を出すアラームを止める。
時間を確認すると、すでにアラームを設定した時間を10分も過ぎてしまっていた。
さっきまで見ていたおかしな夢のことはどうでもよくなり、男は布団から跳ね起きる。
慌てて洗面所へ向かい、男は身支度を始めた。
鏡を見てみると、今日に限って酷い寝癖がついている。
昨日しっかり髪の毛を乾かして寝なかった自分に憤りながら、男はいつもの倍のスピードで身支度を終えた。
ソファの上に置きっぱなしになっていたカバンと、布団の上のスマホを回収し、慌てて玄関へと向かう。
外に出て、カバンから鍵を取り出し、ドアに鍵をかけたところで、男は「あっ!」と大きな声を上げた。
「……今日、振替休日だ。」
問題です。男が目覚めたのは何月何日の何時何分?
今日は月末の31日で、忙しくなることは承知していたのだが、どうやら想像を超える忙しさだったようだ。
「先月の同じ日はあんなにゆっくりできたのに、大違いだなほんと。」
ここから、31日まである月が続いていることがわかります。
31日まである月が続いているのは、7月と8月か、12月と1月しかありません。
唯一、6日前の日付に赤い丸がついており、大きな文字で給料日と書かれている。
ここから、給料日は25日ということがわかり、
手帳のページをめくり、翌月の予定を見てみると、給料日の4日後に「旅行」の文字を発見した。
ここから、沖縄旅行は、来月の29日だということがわかります。
「次の日には飲み会があるから、お土産買うの忘れないように、メモしておこう。」
再来月のページを見てみると、31日にも「飲み会」と書かれている。
再来月には飲み会が2回とさらに結婚式もあるということになる。
可愛い妹の結婚式で祝儀をケチるわけにもいかないので、男は会社へのお土産を諦めることにした。
この辺りから、旅行の翌日にある飲み会と、再来月の31日にある飲み会が同月内の話だということがわかります。
来月の旅行が29日で、その翌日にある飲み会が再来月だということは、来月は29日までしかなく、「2月」だということがわかります。
以上のことから、はじめに男が帰宅したのは「1月31日」
沖縄旅行へ行くのは、「2月29日」
友人との飲み会は、「3月1日」
会社の飲み会は、「3月31日」
ということがわかりました。
そして、男が目覚めたのは、帰宅した翌日。
アラームを設定した10分後なので、「2月1日5時10分」ということになります。