ここは、マルバツ高校の中庭。
天気のいい今日は、ベンチでお昼ご飯を食べている生徒がたくさんいる。
「あー、次の授業までどうすっかな」
食べ終わったゴミをコンビニ袋に入れ、彼はそのまま大きく伸びをした。
「吉岡君、お腹見えてるよっ。」
虚を突かれた吉岡は手に持っていたコンビニ袋を手放し、両手でサッと服を下した。
「んだよ、七瀬、見てんなよ。」
吉岡は他におかしなところがないか、素早く確認し、あえてぶっきらぼうにそう答える。
「吉岡君って、女の子みたいな反応するんだね、ちょっと可愛い。」
でもポイ捨ては良くないなぁ、と言いながら七瀬は吉岡が落としたゴミを拾い、近くのゴミ箱へ捨て、吉岡が座っているベンチまで戻ってきた。
「となり、座っていい?」
第一問 なぞなぞチャンス!?
「いいけど…。」
内心、少しドキドキしながらも、吉岡は冷静を装っている。
「吉岡君ってさ、なぞなぞ得意?」
ベンチに座った七瀬は、いたずらっ子のような顔をして吉岡に問いかける。
「まぁ、得意かな」
即答した吉岡だが、彼はなぞなぞが得意か苦手かなんて考えたこともないし、今も考えていない。
「じゃぁさ、今から3つの問題を出すから、1問でも解けなかったら、今度遊びに連れてってよ。」
「い、いいよ。」
七瀬は、最近転校してきたばかりの転校生で、吉岡と仲が良いというわけではない。
しかし、吉岡の頭の中では全力のGOサインが出ており、それを不思議に思うほどの余裕はなかった。
「じゃぁ、まず1問目ね。」
「【交番】の中には【×】があって、【市役所】の中には【〇】がある時、【病院】の中には何があるでしょう?」
吉岡は「考える人」のポーズをしながら、問題とは別のことを考えている。
(どこ遊びに行こうかな、七瀬ってちょっと活発なイメージだから、遊園地?
いや、いきなり遊園地はハードルが高いな、ここはカラオケか、映画くらいで様子を見て……。)
「どう?吉岡君わかった?」
ハッとして、顔を上げた吉岡は、七瀬の顔が思っていたよりも近くにあったことに驚き、反射的に距離を取る。
そして、少し困った顔をしながら、こう言った。
「ごめん、もう一回言って」
病院の中には何がある?
【交番】の中には【×】があり、
【市役所】の中には【〇】がある。
では、【病院】の中には何があるのでしょうか?
第二問 帰国子女の転校生
「正解!凄いね!」
「七瀬こそ、こないだまで外国に住んでたんだろ?よくそんなこと知ってるな」
1問目ということで、あえて正解を答えた吉岡は、余裕を取り戻し、思ったことを口にする。
「うん、小学生の時に一度日本に帰ってきてたこともあるからね」
帰国子女である七瀬だが、小学生の頃の経験と、両親の熱心な指導によって、日本で学んだ並みの高校生と同程度の知識は持っている。
「凄いんだな、七瀬って。羨ましいよ。」
自信なさげに吉岡はそう言うが、吉岡の成績はこの学校全体で見ても上の中程度はある。
それでも、吉岡はなぜか七瀬には勝てないと直観していた。
「そんなことないよ、吉岡君今の問題もすぐ解いてたじゃん、凄いよ!」
「まぁ、今のは簡単だったから。それで、次の問題は?」
褒められて悪い気はしない吉岡だったが、それを顔には出さず、次の問題を出すように促した。
「次はちょっと難しいかも」
「ドアの中には【OO】があって、部屋の中にも【OO】があるの。それどころか、屋根の中にも【OO】があるんだけど、同じ仲間は、次のうちどれでしょう?」
「1.太陽、2.月、3.星、4.雲、どーれだっ」
吉岡は再び、考える人のポーズをとる。
同じ仲間は次のうちどれ?
ドア、部屋、屋根、これらの中には【OO】があるという。
この場合、同じ仲間は次の4つの選択肢のうち、どれでしょう?
1:太陽
2:月
3:星
4:雲
第三問 英語の授業
「これも、簡単だったね」
吉岡は冷静を装っているが、少し顔がにやついている。
「んー……なかなか手強いね。じゃぁ次は…」キーンコーンカーンコーン
七瀬がそこまで言ったところで、大きな音で予鈴がなった。
二人同時に、「あっ」と声を漏らし、二人は急いで教室へ向かった。
「Is everybody here?」
息を切らした二人が教室に入ると、英語の教師がみんな揃っているかどうかを確認し、授業が始まった。
(あーぁ、こんなことなら、二問目で間違っておけばよかった。調子のったー、最悪だ。)
吉岡は、授業そっちのけで、一人反省会をしている。
(でも、なんで七瀬はあんなこと言ったんだろ、もしかして俺のこと……。)
チラッと横目で、ふたつ隣の席に座る七瀬を見てみると、熱心にペンを走らせていた。
(そんなわけないか、でもせっかくのチャンスだったのになぁ、ほんと俺って……。あーぁ、もう早く終わんねーかな。)
やる気を失った吉岡は、昼食後の眠気に抗うこともせず、うとうととしながらこの授業をやり過ごすことにした。
「ねぇ、吉岡君、これ七瀬さんが渡してって」
肩をトントンと叩かれ、吉岡は反射的に席を立つ。
「What do you say in Eng……What are you doing?」
「あ、いえ、なんでもありません。」
突然起立した吉岡を見て、教室の中の生徒たちはクスクスと肩を揺らしている。
七瀬にいたっては、笑うのをこらえきれていない。
「ごめん、吉岡君私がいきなり話しかけたから。」
隣の席の中村が、そういいながら一枚の紙を渡してきた。
「いいよ、俺が悪いんだし。」
吉岡はそう言うと、紙を受け取り、中を開いてみる。
熱心にノートを書いているように見せかけて、七瀬は問題を紙に書いていたようだ。
(これ、まさか3つめの問題?これに答えなければ、遊びに行けるってこと?)
吉岡は、本来の趣旨とは少しずれたことを考えている。
(というかそもそもこれ、間違いなんてなくないか?もしかして七瀬は俺と遊びに行きたくて、わざと答えの無い問題を出したんじゃ…。)
そう思い、七瀬の方を見ると、自信満々という顔でこちらを見ていた。
(いや、違うな、これはマジのやつだ。正解を答える必要はないけど、本当に解らないってのもカッコ悪いよな)
机をコツコツと指で叩きながら、吉岡は問題の紙とにらめっこしている。
(あ、これそういうことか、だから余計な数字。なるほどなぁ。)
ふぅと大きく息を吐き、吉岡は問題の紙に答えを書き込んだ。
間違いを見つけ、余計な数字を取り除こう
カフェスクエア店内
「映画楽しかったね!次はどこ行く?」
「そうだね、じゃぁ、カラオケでも行く?」
本当は、映画の内容なんて全く頭にこなかった吉岡だったが、適当に相槌をうち、次の提案をした。
「いいね!じゃぁ、これ食べ終わったら移動しよ」
七瀬は、小さいパフェをゆっくりと食べながら、嬉しそうにそう言った。
「ところで、吉岡君さ、この問題本当はわかってたんじゃないの?」
七瀬は、答えの欄に大きく「ギブアップ」と書かれた紙を出して、吉岡に見せた。
「いや、本当にわからなかったんだよ。辞書で調べても英語は間違ってなかったし、何より数字がどうのこうのってのがわかんなくて、よく考えてみたんだけど、無理だった。」
吉岡は鼻をかきながら、そんなことを言っている。
「急にそんなにいっぱい喋ったら、嘘だってすぐわかっちゃうよ?」
七瀬は笑いながら言った。
「べ、べつに嘘じゃねーし、本当にわからなかっただけだし!それよりもう行こうぜ」
吉岡は好きでもないアイスコーヒーを一気に飲み干し、七瀬を急かす。
「あはは、やっぱり吉岡君って可愛いね!」
七瀬と吉岡が座る席の横を、英字新聞を持った男が通り過ぎる。
男はチラッとテーブルの上に置かれた紙を見て、少し立ち止まる。
その行動を不信に思った吉岡が、男の方を見ると、男は失礼と言って片手を上げ、別の男が座っている席の向かい側に座った。
「学田、青春っていいよな。」
「何ですか突然。」
「いや、なんでもない、ところで面白い問題があるんだが、解いてみるかい?」
「お!いつものやつですね、いいですよ、やりましょう。」
「じゃぁちょっと、待ってくれよ」
男はそう言うと、紙とペンを取り出し、「間題」と書いた。
「それ、字間違ってますよ?」
学田と呼ばれた男は、すぐに間違いに気付き指摘する。
「学田、君モテないだろ?」
男は、ペンを置き続きを書こうともせず、学田を哀れんだ。
「なんですかそれ、どういうことですか!てか問題は!?」