少し肌寒い雨の日
並木道を一組のカップルがゆっくりと歩いている。
雨を嫌がる人も多いはずなのに、女の方はどこか嬉しげだ。
「なんかごきげんだね。」
男はそんな女の様子を見て、なにがそんなに嬉しいのか気になったようだ。
「うん!だってこの傘早く使いたかったから。」
女は嬉しそうに傘をクルクルと回す。
「あぁ、こないだ俺がプレゼントした傘ね。喜んでもらえて良かったよ。」
そういいながら、男も少し顔をほころばせている。
その時だ。
2人がさしている傘に、雨粒とは思えない何かが降ってきた。
「うぉ、なんだ」
「え、なに!私の傘にも落ちてきた!」
ふたりは驚いた表情で顔を見合わせる。
「もしかして鳥のフ……」
女は貰ったばかりの傘に最悪なものが落ちてきたことを想像したようだ。
それを遮るように、男がいう。
「あぁ、なんだ落ち葉か。」
男はすぐに落ちてきたものの正体がわかったようで、女を安心させるためにわざとそれを口に出した。
「ほんと?ほんとに?んー傘さしたままじゃ見えない!」
「俺が見てやるから、ちょっとかがんでみ?」
女は男の指示通り、少しかがんで男に傘を見せ、先ほどとは違う理由で傘を回した。
「あ、ほらやっぱり落ち葉だ、良かったな。」
男は女の傘に着いた落ち葉をとってやると、それを女に手渡した。
「ほんと、イチョウの葉だ。なんか茶碗蒸し食べたくなってきたね。」
「なんだそれ、じゃぁ今日は俺が晩御飯作ろうか」
安心した女は、先ほどまでの表情とは打って変わってとてもうれしそうだ。
「じゃぁ、早く帰ろ!」
そう言って女は歩みを速め、男の先を行く。
「単純なやつ」
嬉しげにクルクルと回っている傘を見ながら、男は独り言を呟き、小さく笑った。
男はなぜ、降ってきたものが落ち葉とわかったのでしょうか?
女は、傘に降ってきたものが何かわからず、最悪の想像をしていたようですが、男はすぐに落ち葉だと気づいたようです。
男も女もそれぞれ間違いなく傘をさしていたのに、なぜ男だけが気づけたのでしょうか?