「あー、暇や。なんかおもろいことないかなぁ。」
ある森の中、一匹のきつねが獣道を歩いている。
「人里へ行くのは面倒やし……。せや、たぬきのやつでもからかいに行こ!」
きつねはそう言うと、器用に四足歩行でスキップをしながら、森の奥へと向かっていった。
きつねは大きな木の根元までやってくると、大きく息を吸込み、その傍にある穴に向かって叫んだ。
「火事や!山火事や!木が燃えとる!」
叫ぶやいなや、近くの草の中に隠れるきつね。
笑いを必死にこらえているためか、身体が小刻みに震えている。
しかし、いくら待っても穴の中から反応はない。
焦れたきつねは草から這い出ると、もう一度穴の所へいき、今度は頭を突っ込んで中の様子を伺った。
「なんやねん、おらんのかいな。」
第一問 中なのに下?
きつねが穴に頭を突っ込んだまま独り言を呟いた瞬間、不意に後ろから声がかかった。
「おい、儂の住処の前で何してる。」
きつねは突然後ろから声をかけられたことに驚き、慌てて穴から頭を抜く。
後ろを振り向くと、そこにはジト目をしたたぬきがいた。
「い、いや、なんも。ちょっと暇つぶしに来ただけや。」
慌てて平静を装うきつね。
しかし、たぬきにその手は通用しないようだ。
「見てたぞ。」
「なにが?」
「み て た ぞ?」
「どこから?」
「『火事や!山火事や!木が燃えとる!』から。」
「……。」
きつねは返す言葉がなくなり、沈黙を続けている。
そんな様子を見たたぬきは、諦めたようにため息をつくと、気持ちを切り替えてきつねに問いかけた。
「で、なんのようだ?」
「え?あ、いや。特に用もないんやけど……。あぁ、せや、あれや、知恵比べでもしよかなぁ思て。」
「なるほど、儂をからかいに来たと。」
「ちゃうちゃう!知恵比べ好きやろ?ほら、問題出したるから、な?」
「お前さん、化かすのはうまいのに、嘘は本当に下手くそだな。」
「う、嘘ちゃうて!ほな、問題な!」
気まずくなったきつねは、強引に話を転換し、たぬきに問題を出題した。
「あるものの『中』なのに、『下』と言われるものはなんでしょう!」
「中なのに、下?」
「中っちゅか、内とも言えるかな。」
「んー、それ儂らも使うものか?」
「いや、動物はまず使わんもんや。人に飼われてる犬なら使うやつもおるやろけどな。」
『中』なのに、『下』。これなーんだ?
第二問 スポーツ観戦
「簡単すぎるな。これ、今とっさに思いついた問題だろ。」
即答したたぬきに対し、きつねはぐうの音も出ない。
「じゃぁ、今度は儂の番だな。」
「お、やるんか?よしこい!」
どうやら、今度はたぬきが問題を出すようだ。
「儂はこの前あるスポーツを見に行きました。」
「ほうほう。」
「AチームとBチームの試合で、両チームの選手はそれぞれお揃いのユニフォームを来ています。」
「ほんで、ほんで?」
「それぞれのチームには、一人だけ年配のおじさんが混ざっていましたが、そのおじさんも他の選手と同じようにユニフォームを来ています。さて、なんのスポーツを見に行ったでしょう?」
「なんやそれ、そんなんどのスポーツかわからんやん。」
「もっとよく考えろ。」
「ちなみにそのおじさんは活躍しとったんか?」
「いや、一度も試合には出てなかったな。」
「試合に出えへんおっさん。でもユニフォームは着てる……。」
たぬきが観戦したスポーツはなに?
第三問 オーブントースター
「そんなん知らんわ!大体なんでたぬきのくせにスポーツなんて見とんねん」
「儂、人間の友達多いし、たまに草野球もするから。」
「ほんま器用なたぬきやな。まぁ、ええわ次は難しいのいくで!」
たぬきの問題に答えられなかったきつねは、なんとかこのたぬきにぎゃふんと言わせようと、とっておきの問題を出すことにした。
「オーブントースターって知ってるか?」
「あの、パンを焼くやつのことか。」
「そう。あれって、食べもんをあっためたり、焼いたりするのに使うやろ?」
「儂も人間の友達の家で使ったことあるけど、あれは儂らの変化よりよっぽど凄い。」
「あれな、実は、冷たい水を作ることも出来んねん。」
「嘘つけ。」
「ほんまやねん。あるもん入れたら冷たい水が出来んねん。なんや思う?」
「冷たい水…冷たい水…?」
どうすればオーブントースターを使って冷たい水を作ることができるのでしょうか?
「あー、そういうことか。」
どうやら、たぬきもきつねの問題に答えることができなかったようだ。
「どや!まいったか!」
「いや、まいってはないな。そもそも問題がズルい。」
「なんでやねん!ほな次はなぁ!」
こうして、たぬきときつねの知恵比べは辺りが真っ暗になるまで続いた。